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Europe Insights

欧州市場を見る眼~現地からの報告
2019年01月25日
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    トピックス:財政緩和へのシフト

    イタリアとフランスの2019年の財政政策は緩和方向へとシフトしており、昨年12月に欧州委員会(EC)の合意を得た。

    市場の反応はイタリアに関してはかなり不安定であった(図表1参照)。10年物のイタリア国債のドイツ国債とのスプレッド(利回り格差)は327bp(ベーシスポイント)と3年ぶりの高水準に急上昇した後、260bpまで低下したが、2015-2019年の水準と比べると依然高水準にある。一方、フランス国債のスプレッドは36‐46bpのレンジにやや拡大したものの、過去の平均付近にとどまっている。

    財政の持続可能性と経済成長を支える改革に向けた確たる姿勢が示されなければ、スプレッドの拡大圧力が再び高まる可能性がある。

    図表1:イタリア、フランスの国債利回りの不安定なスプレッド(注)は両政府に財政規律を求めている

    イタリア、フランスの国債利回りの不安定なスプレッド(注)は両政府に財政規律を求めている

    注:イタリアおよびフランスの10年物国債利回りのドイツ国債とのスプレッド(利回り格差)

    出所:ブルームバーグ、2019年1月14日現在

    フランス、イタリアの現状


    フランスとイタリアが新たな財政刺激策を採用

    フランスでは12月10日に政府が「黄色いベスト運動(黄色いベストを着てマクロン政権に抗議する全国的なデモ)」への対応として、的を絞った財政緩和策(100億ユーロ規模、GDPの0.4%)を1月にも実施すると発表した。この財政緩和策により、財政赤字の対GDP比は3.2%程度(これまでの目標は2.8%)、政府債務残高の対GDP比は99%近くに拡大するとみられる。2020年の財政赤字目標(1.7%)を達成するには、政府が今年中に追加対策を講じる必要がある。

    イタリアの2019年予算案は、当初11月に欧州委員会により却下された。しかし、市場が動揺すると(図表1参照)、政府は12月12日に態度を軟化させ、財政赤字の目標(対GDP比)を2.4%から2.0%に引き下げた。政府は政策の2本柱である最低所得保障と年金改革の巻き戻しを段階的に実施する決定を下した。新たな戦略は、所得再配分を見直し、最貧層への支援を強化するとともに、最低所得を(人材と仕事を結ぶ)機敏な労働市場政策に一部連動させ、早期退職要件を3年間停止することをベースにしている。2019年予算には法人税の増税のほか、財政赤字目標が未達の場合には、計画された歳出のうち20億ユーロを凍結する措置も盛り込まれている。

    欧州委員会が新たな予算の目標に合意した理由


    欧州当局は、最善の策は各国政府との建設的な対話を促しながら、信頼感を維持し、域内の成長を支えることであると判断

    欧州委員会は、政治的な妥協を優先した模様であり、予算に関するルールを一部棚上げすることに合意した。もう一つの理由として、イタリアとフランスの状況に対し、リスク管理の観点でのアプローチが求められたことが考えられる。フランスでは、社会的抗議活動を受けて信頼感指数が大幅に低下しており、また「黄色いベスト運動」の要求に対して政府は毅然とした対応を迫られている。欧州委員会は、フランス政府が公共支出の効率性や、年金と失業給付制度の見直しを含め経済成長を促す改革に引き続き取り組んでいく姿勢を評価している。こうした中、改革計画を条件に、フランスには「柔軟性条項」が適用されている(1)。

    イタリアでは、プライマリーバランスの黒字が2014年以降、対GDP比1.5%に上っているものの、政府債務残高の対GDP比は131%で高止まりしている。景気の低迷がイタリアにとり主要な問題である(2000年以降の成長率は平均で前年比0.4%)。イタリア政府と欧州委員会は、財政刺激策の圧縮(対GDP比1.4%から0.8%へ)と、より現実的なGDP成長率予想(2019年は1.5%ではなく1.0%)で最終的に合意した。新たな見通しは構造的財政赤字(2)の拡大を示唆しているが、イタリアには投資に関する柔軟性条項(1)が適用され、またEUの構造基金も活用しやすくなる。

    欧州当局は、最善策は、各国政府との建設的な対話を促しながら信頼感を維持し、域内の成長を支えることと判断したとみられる。将来の通商関係(英国のEU離脱、米国の関税)をめぐり不確実性が高まる一方、5月の欧州議会選挙を控えて経済が減速している厳しい環境が、この決定を引き出したものと考えられる。

    2019年はいかに影響が現れるか?


    イタリアとフランスでは財政措置が消費者心理と家計支出を下支えする見通し

    イタリアについては、欧州委員会は最低所得保障と年金改革の巻き戻しにより向こう数年間はコストが増加する中で、「警戒を怠らず状況を観察する」(3)ことが求められるとしている。フランス政府は、引き続き改革に取り組む必要がある。イタリアとフランスでは、財政措置が消費者心理と家計支出を下支えするとみられている。また投資プロジェクトも多数存在する。イタリアの予算案によると、国内資金が不十分な場合、欧州基金が不足分をある程度埋めることになっている(4)。さらに、資産購入プログラムは終了するものの、欧州中央銀行は満期を迎える債券を長期にわたり再投資して、必要な限り十分な流動性を維持すると確約している。目先、格付け会社が格付けを発表するとみられるが(5)、イタリアとフランスは引き続き構造問題の解決に取り組んでおり、経済および財政環境が大幅に悪化しない限り、おそらく格付会社が両国の格付けを引き下げることはないと見られる。

    (1)柔軟性条項は一定の状況下において財政が事前に定めた範囲を逸脱することを認めるものである。
    (2)構造的財政収支は、景気循環の影響と一時的要因を除外したベースの財政収支。欧州安定成長協定で定めた予算ルールには、2019年の構造的財政収支が2018年と比べてフランスはGDPの0.8%、イタリアはGDPの0.6%改善することが規定されている。ただし、柔軟性条項により、必要とされる構造的調整が下方修正される可能性がある。
    (3)ヴァルディス・ドムブロフスキス欧州委員会副委員長の演説。ブリュッセル、2018年12月19日
    (4)欧州構造基金と欧州投資計画は的を絞った投資プロジェクトを支援することを目指している。
    (5)1月11日、カナダの格付会社DBRSはイタリアの「BBB」の格付け見通しが安定的であることを確認した。

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