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Europe Insights

欧州市場を見る眼~現地からの報告
2019年05月13日
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    欧州議会議員選挙:EUは重要な転機を迎えるか

    欧州議会議員選挙が間近に迫ってきた。選挙は5月23~26日に実施され、最終結果は5月26日の夕方に公表される予定である。

    本稿執筆時点で、世論調査が正確であるとすれば(1)、欧州議会の主要2会派(下表参照)はおそらく絶対多数を失い、欧州議会は会派の細分化に向かうとみられる。欧州議会議員選挙の結果は、欧州連合(EU)における政策の方向性と各国の政策の両方に、何らかの影響を及ぼすものとみられる。

    欧州人民党(EPP)& 社会民主進歩同盟(S&D)

    これまでのところ、市場への影響は限定的である。市場はイタリアの政治リスクの大半をすでに織り込んでいるようだ。イタリア10年債利回りの対ドイツ国債スプレッドは、3月末から再度拡大し初めたが、その悪影響は他のユーロ圏周辺国へは及んでいない。

    しかし選挙の動向は非常に流動的であるといえよう。ユーロ圏各国の国内政党は、自らの候補者名と候補者を順位付けした名簿(2)を5月3日の期限までに登録済みである。

    公式な選挙運動は5月中旬から開始されるが、選挙関係書類は投票日の数日前までに投票者に送られることになっている。

    1. 当社は世論調査の結果が正確でない場合があることや、急速に変化する可能性があることを認識している。集計は各国の世論調査に基づいている。

    2. 欧州議会議員選挙は、比例代表制方式で行うことが求められており、名簿方式または単記移譲式[single transferable vote system]が採用されている。名簿方式では投票用紙には政党名(場合によって、政党名の下にそれぞれの候補者名も)または無所属候補者の名前を記入することになる。各政党はそれぞれの候補者を順位付けした名簿を提出する。欧州議会における獲得議席数は、各政党の得票率に基づいて配分される。多様な形式の比例代表制が採用されている(さらに今後変更される可能性もある)。例えば、最小投票獲得率(0から5%まで)、採用される投票方法、選挙区(地方区または全国単一選挙区)または名簿自体(拘束式、非拘束式)さえ加盟国ごとに異なっている。例えば、スウェーデンでの投票では特定政党に投票する場合、名簿中の候補者名を書いても書かなくても良いことになっている(選好投票)。マルタ、アイルランド、北アイルランドでは、投票者は複数の候補者を優先順位に基づいて記載する(単記移譲式)。ルクセンブルグでは投票者は異なる名簿の候補者に対してさえ投票することが可能である一方、フランスでは名簿は固定されている(拘束式)。例えば、フランスは欧州議会に74議席を確保しており、そのため各名簿の候補者数は獲得可能議席数を上回ることはできない。

    当レポートは情報提供のみを目的とし最近の経済情勢について俯瞰的に概観を提供するものであり、マーケティングのためのコミュニケーションです。また調査の独立性を担保するための法的要件に沿って準備されたものではなく、配布前の取り扱いに関していかなる禁止事項の対象となるものでもありません。

    3. 欧州理事会は、EU加盟国の国家元首または政府の長、欧州委員会委員長、欧州連合外務・安全保障政策上級代表で構成される。欧州委員会はEUの全般的な方向性や政治的優先事項(外交および安全保障)を決定し、政府間の協力というより低い段階での対応では解決できない複雑または慎重に扱うべき問題に対処する。欧州委員会は特定多数決、つまりEUの人口の65%以上の人口構成比となる加盟国全体の55%以上の賛成によって、欧州中央銀行(ECB)総裁、委員会委員長などの主要高官を指名する。ECB総裁については、欧州議会は助言の役割を担うにとどまっている。

    政治力学がどのようにEUの政策機関に影響を与えるか?


    欧州議会が細分化し、明確な多数派が存在しなくなることにより、議会運営に支障が生じたり、迅速な意思決定が妨げられる可能性がある

    200を超える各国国内政党が現在欧州議会に議席を持っており、これらの政党は欧州規模の政党の傘下に入ることによって組織化されている。欧州規模の政党を組織するためには、最低でも加盟7ヶ国以上から選出された25人以上の議員が、共通の政策基盤に基づいて結集する必要がある。選挙前に、欧州議会の各政党は、自らの最優先候補者であると同時に、EUの政策機関の執行主体である欧州委員会(EC)の委員長に立候補する資格も有する候補者を指名する。欧州議会は、欧州委員会委員長を選出し、加えて28人の委員を指名する。なお、欧州議会は、財源の配分、関税や貿易協定を含む貿易政策などの重要な分野について、欧州理事会(3)と対等な立法権を持っている。欧州議会が細分化し明確な多数派が存在しなくなることによって、議会運営に支障が生じる、意思決定が妨げられる、EUの政策機関に協力的でないEU高官が指名される、などのことが起こる可能性がある。

    世論調査結果は何を意味するのか? ①


    イタリア、ドイツ、スペインなどの主要EU諸国において、欧州連合懐疑派の新たな政党が登場したことによって、2014年以降、政治情勢は劇的に変化した

    本稿執筆時点で、世論調査が正確であるとすれば、欧州議会の主要会派はおそらく絶対多数を失い、欧州議会は会派の細分化に向かうとみられる(4ページの表を参照)。欧州議会の主要2会派とは、右派および中道右派の「欧州人民党」(EPP)、左派および中道左派の「社会民主進歩同盟」(S&D)であり、これらは加盟各国の既存政党などで構成されている。EPPとS&Dは現在欧州会議でそれぞれ29%と25%の議席を占めているが、世論調査によれば、次回選挙での獲得議席はそれぞれ24%および20%に低下するとされる。これに次いで親EU派の「欧州自由民主同盟」(ALDE、このグループにはフランス大統領が所属する共和国前進[LREM]が参加している)が13%程度を獲得するとみられる。全般的にみて、これら3グループは通常、EUの政策機関に対して協力的であるが、必ずしも統合の推進や各国の政策のEUレベルへの統一化に賛成するとは限らない。

    次いで、欧州連合に反対もしくは懐疑的な見方をする政党やグループ(以下、欧州連合懐疑派)がいくつかの欧州議会のグループに広がり、中には新政党を結成しようとする動きも見られる。イタリア、ドイツ、スペインなどのEU主要諸国において、欧州連合懐疑派の新たな政党が登場したことによって、2014年以降、政治情勢は劇的に変化した。現時点での世論調査の集計によれば、欧州連合懐疑派はおそらく得票数全体の約30%(前回選挙では20%)を獲得するとみられる。現状では政治情勢は非常に流動的である。浮動票の比率が多く、また投票率が変わることも想定され、選挙結果がこれらに左右される可能性がある。例えば2014年の欧州議会選挙の投票率は、イタリアで高水準を記録し(57.2%)、ドイツ(48.1%)、スペイン(43.8%)などがEUの平均(42.6%)を上回った。一方で、欧州連合懐疑派が優勢であった英国(35.6%)、ハンガリー(29%)、ポーランド(23.8%)では低水準であった。EU構成国の人口は様々であり、これらの国々での投票率により、勢力均衡がどちらかの方向にシフトする可能性がある。

    世論調査結果は何を意味するのか? ②


    最近のイタリア、スペイン、フィンランド、エストニアの選挙でみられたように、欧州連合懐疑派の政党が各国の議会で議席数を増やしているのは確かであるが、これら政党の大半は最近、ユーロ圏離脱またはEU離脱についてさえ、主張を軟化させた

    最近のイタリア、スペイン、フィンランド、エストニアの選挙でみられたように、欧州連合懐疑派政党が各国の議会で議席数を増やしているのは確かであるが、これら政党の大半は最近、ユーロ圏離脱またはEU離脱についての主張を軟化させた。重要な問題は、これら欧州連合懐疑派政党が、主要なEUの政治的目標を提起し、あるいはこれを阻止するだけでなく、EUの予算配分にまで影響を及ぼすほどの多数の議席数を獲得できるか、という点である。

    留意すべきは、欧州連合懐疑派政党は、政治スペクトラム上では「左派」から「右派」まで広範に広がっているということである。欧州議会ではいくつかの政党に分散されており、また一部は無所属であることもある。場合によっては、国内政党が、選挙後の新欧州議会の初回開催日直前に、欧州議会政党に参加する可能性もある。この動きの鍵を握っているのがイタリアの政治情勢であり、連立政権を構成する2つのポピュリスト政党が現在、それぞれ異なる欧州議会政党グループを結成する意向を持ち、そのために活動している(4ページの表を参照)。

    欧州全体の政治目標に実際に影響力を持つためには、各国内政党はいずれかの欧州全体の政党グループに属す必要があるが、「すべての欧州連合懐疑派政党が1つの政党グループの下に結集する」という最悪のシナリオが実現する可能性は低いとみられる。予想される獲得議席数では、おそらく、これを実現させるには不十分とみられる。あるいは、おそらく、各国内レベルで親EU派や中道派の国内政党が、情報発信およびEUの政策的措置についての議論を活発かつ適切に行い、欧州連合懐疑派勢力から受ける“挑戦”に立ち向かう可能性もあるとみられる。

    重要な転機


    欧州議会議員選挙の結果は、財源の配分と構造改革の推進に関する政治力学を変化させる可能性があり、EU加盟国政府にとり試金石になるとみられる

    欧州議会を構成する政党は非常に細分化されており、政治スペクトラム上で左派から右派にわたって政策の優先順位が分散されているため、現段階で選挙結果の経済的な影響を定量的に予想するのは困難である。欧州議会が小規模の政党やグループに細分化されれば、意思決定過程が複雑になり、また意思決定がスムーズに進まなくなる可能性がある。その結果、政策方針が不確定的になり、企業の信頼感や投資家の投資マインドに何らかの悪影響を及ぼす可能性も出てくる。EUにおける政策の一貫性またはEU統合プロセス(その進捗には様々なペースが想定される)に関する不確実性は、いずれはある程度市場価格に反映される可能性がある。

    しかし、4ページの表が示すとおり、主流派に親EU政党グループを加えると欧州議会での絶対多数は維持される可能性が高い。より重要なのは、欧州議会議員選挙の結果は、財源の配分、構造改革の推進、EU規則に対する(各国の)適合性、またはEUの貿易政策に関する政治力学を変化させる可能性があるため、加盟国政府にとり試金石になるとみられる点である。こうした状況はすでにEUの貿易政策または財政規律への適合性に関する交渉で発生している。

    最も重要な点は、EUの意思決定プロセスでは、欧州理事会を通して、各国政府が引き続き主要な役割を担うということである。

    表:世論調査の世論調査(Polls of Polls)による欧州議会議員選挙の獲得議席予想

    世論調査の世論調査(Polls of Polls)による欧州議会議員選挙の獲得議席予想

    出所:欧州全体の世論調査(Poll of Polls)2019年4月24日現在

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