インドの金融政策の行方と債券市場の見通し
インドの金融政策の行方と債券市場の見通し
米欧をはじめ世界的に各国・地域の中央銀行の動向に市場の関心が高まる中で、インドの金融政策の行方もインド債券市場を見る際に重要なポイントになると考えられます。こうしたなか、本レポートではインドの金融政策に対する当社の見方などを取り上げました。
Q1:世界的に各国・地域の中央銀行が利下げを実施あるいは検討しているなか、インド準備銀行(RBI)は 慎重な姿勢を維持していますが、世界的な中銀の政策転換の影響を受けないでいられるでしょうか?
- RBIは、8月の金融政策決定会合後の声明文を通じて、債券および為替市場の過度な変動を回避するため、期待の抑制に努めていることが伺われます。特に、外部環境は依然として不透明であり、有意義な結論を導くには、より多くのデータが必要だからです。
- しかし、次回10月の金融政策決定会合では景気重視であるハト派的なスタンスが示される可能性があり、12月以降、RBIは金融緩和に乗り出すことも考えられます。先進国における金融政策への見通しについては、ここ数週間の間に多くの変化がありました(そして、現在も変わり続けています)
①米国では、段階的な25ベーシスポイントの利下げサイクルが予想されていたものの、市場では景気後退の可能性に対する懸念の高まりを受け、より大幅な利下げを早期に実施するとの見方も浮上しています。本レポート作成時では、2024年には100~125ベーシスポイントの利下げが予想されており、2025年にはさらなる利下げが想定されています。同様に、欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)も、利下げを継続すると予想されています。
②日銀の対応を受けて日本のリスク資産が急落したため、日銀は、市場における近い将来の一段と積極的な金融引き締めへの懸念を沈静化させることを余儀なくされました。
③中国も依然として経済成長が弱いことから、緩和的な政策を継続すると見込まれます。
- 仮に世界的に各国・地域の中央銀行の行動が概ねこの路線に沿って展開されるのであれば、RBIは独自の金融政策の判断において、以下の点を重視する必要があると思われます。
①米国をはじめ世界的に景気減速が深刻化し、経済成長予想が大幅に下方修正された場合、インドにマイナスの波及効果をもたらす可能性があります。
②世界的な景気減速によるコモディティ価格の値下がりが現在予想されているよりも早く見られた場合、インフレ率がRBIのインフレ目標である4%に近づく可能性が一段と高まります。
③米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な利下げを行うシナリオでは、1年後の米国とインドの政策金利差は3%に近づくと考えられます。これは、1年先の予想インフレ率格差が約2%(この期間においてRBIが政策金利を据え置くと仮定した場合であるが)よりも、はるかに高い水準となります。このような状況では、インドの実質金利は高すぎるとRBIが考える可能性も否定できません。
Q2:インドの中立金利*は直近では1.4~1.9%と推定されていますが、RBIが政策金利を引き下げる余地はあるのでしょうか?
*中立金利とは実際の生産量が潜在的な生産量に一致する場合の実質金利
- 最近のRBI の調査によると、インドの中立金利は主として潜在成長率の上昇により、1.4~1.9%に上昇したと推定されています。1年先のインフレ率が4.4%と見込まれる中で、中立金利の範囲の上限を勘案すると、現行の政策金利6.5%は妥当であると思われます。しかし、米国景気が急減速し、RBIの2024年度のGDP成長率予想7.2%に下振れリスクが生じる場合、検討すべき適切な中立金利は範囲の下限である1.4%になると考えます。また、インフレ率の見通しもやや下方へのバイアスが強まり、RBIの政策金利の妥当なレンジは、75~100ベーシスポイント程度急速に低下し、5.50~5.75%となる可能性もあります。
Q3:RBIの金融政策スタンスは、流動性がタイトな状態が続くことを示唆しているのでしょうか?
- RBIは「金融緩和からの撤退」という金融政策スタンスを維持しており、一部の市場参加者が期待していたような「中立」に変更していません。しかし、下図が示すように、実際には流動性状況は既に著しく改善しています。今後、流動性は引き続き潤沢な状態が続くと予想されます。この兆候は表明されているスタンスそのものよりも意味があると考えており、結果として短期金利は徐々に低下すると当社では見ています。

出所:ブルームバーグ、HSBC MF research、2024年8月8日
Q4:最近、債券利回りが低下していますが、金利見通しと長期デュレーションのスタンスについて、引き続き強気で見ていますか?
- 2024年3月まで7.15~7.35%のレンジで推移していた10年物インド国債の利回りは、過去3ヶ月で約25ベーシスポイント低下し、現在は6.90%程度となっています。
- インドのマクロ環境関連の変数による当社の分析では、引き続き債券利回りの低下に関してポジティブなバイアスを示しています。

出所:HSBC Asset Management (India) Pvt Ltd
- JPモルガンの新興国債券指数への組み入れにより、外国ポートフォリオ投資家(FPI)によるインド国債への需要は毎月20~30億米ドルで安定しています。2023年9月の指数組み入れ発表以降、FPIによる購入総額はこれまでに約140億米ドルに達し、今後8ヶ月間でさらに160億米ドルの流入が見込まれています。
- 財政赤字(2025年度の対GDP比は4.5%未満の見込み、GDPに対する債務は減少傾向)という観点ではインドの財政状況が改善していることから、マクロ環境のスコアは引き続き良好です。インドの債券および為替市場は、他の資産クラスと比較しても、相対的にボラティリティが低い状態が続いています。

出所:ブルームバーグ、HSBC MF research、2024年8月8日

出所:ブルームバーグ、HSBC MF research、2024年8月8日
最後に
- 8月の金融政策決定会合における政策金利の据え置きの決定は市場の予想通りでした。会合後における市場の反応も控えめなものでした。
- ここ数ヶ月の間に国債利回りは約25ベーシスポイント低下しましたが、利回りは一段と下がるものと見ているため、金利に対しては引き続き強気の見通しを維持し、当社の債券ポートフォリオにおいてはデュレーションを長めに維持する方針です。
- 当社の標準シナリオでは、2024年12月から2025年3月の間にRBIが50ベーシスポイントの利下げを実施すると予想していますが、米国経済の弱さを示す最近の兆候を注視する必要があると考えます。米国の急激な景気減速ないし景気後退のリスクが突如高まったことで、そのようなシナリオが現実化した際、RBIはFRBの政策措置の余波を受けるものと思われ、75~100ベーシスポイントのより大幅な金融緩和を検討する可能性もあります。
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